DXは近年企業を中心に注目されている取り組みですが、DX推進が求められているのは企業だけではありません。デジタル化に遅れを取っている自治体こそ、地域活性化のためにも早急にDXを進める必要があります。

本記事では、自治体DXの考え方や必要性、自治体DXを推進する方法、自治体DXにより解決できる課題などを解説します。

企業の場合も含め、DXが思うように進んでいない原因のひとつは、DXを推し進められる人材の不足です。本記事では、自治体がDX人材を確保する方法も紹介します。ぜひ参考にしてください。

DXとは?

DX(Digital Transformation)とは、IT技術の活用により組織の収益を向上させるだけでなく、デジタル技術を普及させることで、社会や人々の暮らしをより良くする変革のことです。

もともとはスウェーデンのウメオ大学教授によって、提唱された概念です。近年では経済産業省が、2025年までにDXが進まない場合、年間最大12兆円の経済損失が生まれる「2025年の崖」という問題を訴えたことで、企業を中心にDX推進への意識が高まりました。

「DXは企業のためのもの」という認識をもつ方は、少なくありません。しかし、DXを推進している自治体は数多くあり、今後ますます自治体DXの重要性は高まると予想されます。

DXについての詳細はこちらの記事もご確認ください。

自治体DXとは

まずは自治体DXの概要を理解し、自治体DXの推進が求められている背景や根本的な課題、自治体DXに取り組む前に意識したい自治体BPRについて解説します。

自治体DXの意義と目的

自治体DXとは、デジタル技術やデータ分析の活用によって行政サービスの改善・業務効率化を図り、住民の利便性や地域の発展をめざす取り組みを指します。新たな技術を取り入れるだけでなく、職員や住民にとって、新たな価値を提供することが重要です。

デジタル庁は政府の方針として、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を目標に掲げています。

(参照:デジタル庁『デジタル社会の実現に向けた重点計画』)

上記のような社会の実現には自治体や市町村による、住民に寄り添った施策の実行が求められます。具体的な施策として、総務省は以下のように示しています。

  • 自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
  • 同時に、デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスのさらなる向上につなげる
  • データ統計・活用によって新たな価値を生み出す政策立案

(参照:総務省『自治体DXの推進』)

自治体DXが必要な背景と現状の課題

自治体DXが必要とされている背景として、大きな問題のひとつに少子高齢化による人口減少が挙げられます。特に地方では、少子高齢化や過疎化が深刻な問題となっています。過疎化が進んだ地域では、公共事業の実施にしても住民数に対してコストがかかりすぎるので、社会インフラの整備や公共交通サービスの継続的な提供は困難です。

また、人口減少は労働できる人材の不足にも直結します。労働人口が不足すると、ますます地域へのサービス提供は難しくなります。そこで、最新のテクノロジーの活用によって、そういった人手不足や過疎地域の課題を解決し、住民一人ひとりに十分な行政サービスの提供をめざすことが重要です。

自治体が主導でDXを推進しても、自治体ごとに格差が生まれるので、政府が舵を切って着実にDXを推し進めることが求められています。

自治体BPRとは?

自治体DX推進の際には、自治体BPRにも取り組む必要があります。BPR(Business Process Re-engineering)とは、業務改革や業務再設計のことです。つまり、自治体BPRは、自治体の目標を実現するためにアナログからデジタルへ移行し、より効果的・効率的な組織の構造や業務フローの再構築をめざします。

自治体は社会インフラの老朽化や情報漏えいの防止など、幅広い課題を抱えています。そのなかには、テクノロジーの活用・デジタルへの移行で解決できる問題が多々あります。自治体DXを推進するためには、まずは自治体BPRによるデジタル化やデータの活用により、効率化できる業務の洗い出しから始めましょう。

自治体DXで解決できる課題とは?

自治体DXを推進することで解決が見込まれる課題と、総務省が定める「自治体DX推進計画」について解説します。

自治体DXで解決できる課題

自治体DXにより解決が見込まれる下記の主な課題について、順番に解説します。

  • 非効率なアナログ文化からの脱却
  • 労働人口不足による未着手業務への対応
  • デジタル人材の拡充

非効率なアナログ文化からの脱却

紙ベースでのやり取りをデジタル化することは、大幅な業務改善につながります。組織内の回覧文書や管理すべき情報など、かつては紙媒体が当たり前でしたが、あらゆる文書はデジタル移行が可能です。

デジタルでのデータ管理は、必要な情報を探す際にも1枚1枚確認する手間が省け、また、省スペース・省資源にもつながります。誰にでもできるような単純な記入作業はRPA(Robotic Process Automation)ツールを導入すれば、夜間や休日に自動で入力ができます。民間企業では契約書や社内稟議など、デジタル移行できている会社が多く、自治体が遅れを取っているのが現状です。業務効率化を狙うなら、紙媒体のデジタル化から優先しましょう。

労働人口不足による未着手業務への対応

地方では特に顕著ですが、労働人口の不足により、自治体が行うべきサービスの提供や対応が遅れてしまうことがあります。地域公共交通機関の維持や空き家・空き店舗問題、耕作放棄地の増加など、すでに放置されている業務が国内では散見されます。

今後さらに労働人口が減ると、着手できない問題がますます増えるでしょう。自治体の対応の遅れは、住民の不信感や住みづらさにも直結します。対応できる業務を増やすためにも、既存の業務を効率化して、リソースを確保する必要があります。

デジタル人材の拡充

デジタル人材は自治体に限らず、民間企業や官公庁でも不足しており、国内全体の課題です。デジタル化による効率的な業務プロセスの構築には、デジタル人材の確保が必要です。確保には外部からの採用だけでなく、既存職員を教育する方法もあります。

自治体の教育投資によりデジタル人材が少しでも増えれば、地域企業のDX推進サポートもでき、地域活性化につながります。

自治体DX推進計画で定められた6つの重要取組事項

総務省、関係省庁は自治体が取り組むべき事項・内容を「自治体DX推進計画」としてまとめました。そのなかには、重点取組事項として、以下の6つの内容を掲げています。順番に見ていきましょう。

1. 自治体の情報システムの標準化・共通化

各自治体が個別に運用・管理していた情報システムを共通化することで、職員の事務負担軽減と住民の利便性の向上をめざす

2. マイナンバーカードの普及促進

今後行政をスムーズに利用するために、住民の本人確認がオンライン上で完結させることをめざす

確かな本人確認を実現するために、マイナンバーカードの申請促進と交付体制を充実させる

3. 行政手続のオンライン化

マイナポータルの活用により、住民にとって必要な手続きをオンライン化

処理件数の多い業務や利便性向上が見込まれる業務から、優先的にオンライン上で完結できるようにする

4. AI・RPAの利用推進

AI・RPAの導入により、定型業務の自動化・半自動化をめざす
(AI(Artificial Intelligence)……人のもつ知覚や知性を、人工的に再現するもの。

RPA(Robotic Process Automation)……人間が行っていた作業を、AIや機械学習の活用により自動化する仕組み)

5. テレワークの推進

自治体における働き方改革のひとつとして、テレワークを推進

働き方の多様化や新型コロナウイルスへの対策だけでなく、自然災害や非常事態の発生時にも業務を継続する目的がある

6. セキュリティ対策の徹底

各自治体における情報セキュリティポリシーを見直し、セキュリティ対策を徹底

特に「1. 自治体の情報システムの標準化・共通化」に関しては、2025年度までに以下の17の基幹系業務システムを、標準化・共通化することを定めています。

  • 住民記録
  • 児童手当
  • 選挙人名簿管理
  • 固定資産税
  • 個人住民税
  • 法人住民税
  • 軽自動車税
  • 就学
  • 国民健康保険
  • 国民年金
  • 障害者福祉
  • 後期高齢者医療
  • 介護保険
  • 生活保護
  • 健康管理
  • 児童扶養手当
  • 子供・子育て支援

自治体DXを推進する方法

自治体DXの推進については、総務省の「自治体DX推進手順書」が参考になります。手順書には自治体DXを進めるうえで、踏むべきステップを以下のように示しています。

  • ステップ0「DXの認識共有」
  • ステップ1「全体方針の決定」
  • ステップ2「推進体制の整備」
  • ステップ3「DXの取組の実行」

各ステップを解説します。

ステップ0「DXの認識共有」

まずは土台づくりとして、組織内にDXへの共通認識を周知させましょう。

そのためには首長や幹部職員による、リーダーシップや強いコミットメントが不可欠です。そのうえで、一般職員まで含む全職員に対し、DXの基礎的な共通理解を促し、実践への意識を養う必要があります。

また、住民のための行政サービス改革をめざす「サービスデザイン思考」の共有も重要です。利用者中心の行政サービスを提供するためには、以下の「サービス設計12箇条」を参考にしてください。

第1条 利用者のニーズから出発する

第2条 事実を詳細に把握する

第3条 エンドツーエンドで考える

第4条 全ての関係者に気を配る

第5条 サービスはシンプルにする

第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める

第7条 利用者の日常体験に溶け込む

第8条 自分で作りすぎない

第9条 オープンにサービスを作る

第10条 何度も繰り返す

第11条 一遍にやらず、一貫してやる

第12条 情報システムではなくサービスを作る(参照:総務省『自治体 DX 全体手順書 【第 1.0 版】』)

ステップ1「全体方針の決定」

組織内での認識の周知ができれば、地域の実情も踏まえたうえでDX推進のビジョンと方針を決定・共有します。

ビジョンの決定には、以下の自治体におけるDX推進の意義を加味しましょう

  • 住民の利便性の向上や業務効率化
  • 行政の高度化・効率化、民間企業のデジタル化など新たな価値を創出

そして、デジタル化における現状を把握し、DXへの取組内容・取組順序を大まかな工程表にしましょう。ビジョンと工程表から、全体方針が決定します。方針の内容を職員に広く共有することも重要です。

ステップ2「推進体制の整備」

部署の垣根を越えて、全庁的に推進体制を構築します。DXの司令塔としてDX推進担当部門を設置し、各部門と密に連携する必要があります。

そして、各部門の役割に見合ったデジタル人材が配置されるよう、人材育成・外部人材の確保を図ります。育成に関しては、一般職員も含め所属や職位に応じて、身につけるべきデジタル技術の知識・能力・経験をもとに、体系的な育成方針を定めます。人事運用上の取り組みや、OJT・OFF-JTによる研修を組み合わせると良いでしょう。

十分な能力・スキル・経験をもつ職員の配置が困難な場合には、外部人材の活用も必要です。DX人材の確保は容易ではありませんが、DX人材専門の求人紹介サービスの利用が効果的です。

ステップ3「DXの取組の実行」

体制の整備や人材の育成・確保まで進めば、DXを実施します。関連するガイドラインや方針に沿って、計画的に実行しましょう。

「PDCAサイクル」による進捗管理や「OODAループ」のフレームワークを活用した、柔軟で速やかな意思決定が必要です。「OODAループ」とは、「Observe(観察・情報収集)」「Orient(状況・方向性判断)」「Decide(意思決定)」「Act(実行・決定)」の頭文字からなり、意思決定のプロセスを表したものです。

自治体DXの成功事例

宮城県仙台市の事例

窓口手続きのデジタル化

キャッシュレス決済の導入、押印の廃止、添付書類の簡素化

デジタルでつながる市役所

オンラインでの子育て相談、市民対応にモバイル端末を活用

デジタル化で市役所業務の改善

Web会議システムの導入、AI・RPAの活用

単なるデジタル技術の導入ではなく、制度や政策・組織のあり方まで、新技術に合わせて変革を実現しました。さらには地域課題の解決や、社会経済活動の発展を促すことを目標に、日々DXを推し進めています。

大阪府豊中市の事例

大阪府豊中市では、市長自らが「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発表し、庁内外に向けてDXへの強い意気込みを表明しました。デジタル技術を活用した「暮らし・サービス」「学び・教育」「仕事・働き方」のあり方の変革を目標に、「とよなかデジタル・ガバメント戦略」を策定しました。

また、地域情報化派遣アドバイザー制度を活用し、業務変革を行える人材を育てるために「DXセミナー」を開催。さらには、ITベンダーと包括連携協定を提携し、各課が抱えるICTにおける課題を相談できる「ICTよろず相談会」をビデオ会議にて多数開催。各課のICTの活用を推進しました。

栃木県の事例

栃木県はDX推進の実績ある企業と連携し、市町を含む全職員に対して、DXに向けた教育を実施しました。具体的な取り組みは以下のとおりです。

  • 県知事・市町・町長や幹部職員に対して、外部講師によるDXに向けたトップセミナーを実施
  • 県・市・町のその他職員には、DXを推進するためのマインドセット習得を目的とした研修動画を提供

さらに県は各所属に「DX推進員」を設置し、DX推進に必要なマインドセットの習得や、具体的な手法を学ばせるために、所属が抱える課題解決をめざしたワークショップを開催。市町の希望する職員に対しても、同様のワークショップを実施しました。

自治体DXが進んだ未来

自治体DXが進めば、現状ペーパーベースでの処理を要している手続きが電子データで完結します。同時に、押印の必要もなくなるでしょう。また、住民がライフステージごとに公的機関で手続きしていたものが、オンライン上で完結するようになります。

住民にとっては役所に出向く手間が省け、時間や曜日を気にせず申請・届出を可能にし、自治体職員にとっても応対の時間・労力が短縮されます。支払いに関しても、キャッシュレス決済を拡充すれば、納税関連の手続きが簡略化されるでしょう。

さらには、全自治体が共同でWeb上に「クラウド自治体」のようなものを作れば、全国的に共通する手続きは住所地に関係なく進められます。そこに至るには全自治体のDX推進が滞りなく進み、法改正も整備される必要がありますが、技術的には難しくないでしょう。

自治体DX推進には、デジタルに慣れていない層へのアプローチや根本的な業務改革が必要であり、簡単ではありません。しかし、日本自体がDXで遅れを取っているうえに、民間企業と比べてもDXへの意識が低い自治体は多く見られます。

DXを推進するメリットは多々あり、先延ばしにすることはもはやリスクです。まずは、現状の課題の洗い出しと、簡単なデジタル化から始めることをおすすめします。また、DXを進められる人材の不足がネックになっているなら、DX専門の求人紹介サービス「Resource Cloud HR」をご活用ください。弊社では紹介だけでなく、DX人材の育成事業も行っています。

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自治体DXは地域活性化のためにも取り組むべき

自治体DXは職員の業務効率化はもちろん、住民からの信頼や地域活性にもつながります。経済産業省が「2025年までにDXを推進すべき」と訴えたのは、企業に対してだけではありません。国や地域の発展のためにも、DXへの取り組みは急務です。

DXは一朝一夕で成り立つものではありません。3〜5年はかかることを想定し、中長期的な目線で取り組む必要があります。今後ますます人口減少が進む我が国において、DXを先延ばしにするリスクは計り知れません。人材の確保がネックになっている場合は、Resource Cloud HRにお気軽にご相談ください。

また、DX人材について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

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