DX人材として実際に働いている方へのインタビュー
本シリーズでは実際にDXプロジェクトで活躍されている方をお招きして、具体的にDX人材がどういった経緯でどんな業務をしているのか、お話を伺います。今回はINDUSTRIAL-X株式会社で働く木村さんにインタビューをお願いしました。
ーー木村さん、本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、簡単に現職に至るまでの経歴をお聞かせください。
木村さん(以下、敬称略):大学卒業後に大手の通信会社に就職し、伝送通信系の通信を学びました。30歳ごろにIPネットワークが世の中に普及したことでインターネットに興味を持ち、シンガポール・テレコムに転職、シンガポールのIPネットワーク構築に携わりました。日本に戻ってからはワイモバイル(株)の前身であるイー・アクセス(株)、ソフトバンク(株)と職を移し、ソフトバンクのIPの国内展開のプロジェクトマネージャーになりました。
その後、アメリカのBeacon開発のベンチャー企業との出会いをきっかけに、『これは新しいビジネスが来る』と感じ、Beaconを活用した新規事業を立ち上げました。トイレ利用可視化IoTといったIoT事業を構築、普及させ、200社とともに新規開発を行いましたね。1年ほど新規事業企画をしていましたが、実際に現場に出てクライアントの声を聞きながら、コンサルタントとして働く方が自分に合っていると思い、現職に至ります。
ーー200社と新規開発はすごいですね。現職のINDUSTRIAL-X株式会社(以下、IX)への転職に至った経緯や、決め手は何だったんでしょうか?
木村:的にIXに参加したのは2021年の11月からなんですが、以前から代表の八子とIoT事業を行っていて、先進的な取り組みについてよく話していました。21年10月頃から業務委託として商品開発を手伝う中で、IXの方向性と自分のやりたいことがマッチしていると感じ、本格的に参加することを決めました。
ベンダーとしてサービスを売るのは課題解決というより、売ることに注力せざるを得ないんですよね。その点、IXはコンサルティングとしてクライアントの課題を見つけることから始まるので、しっかりクライアント企業に入り込んで解決していくところが魅力でした。
ーーベンダーとコンサルティングでは、クライアント企業との向き合い方が違いますもんね。ちなみに今はどのようなプロジェクトに参加されているんですか?
木村:現在は製造会社2社の無線通信インフラの構築、リゾートホテルのDX推進室では無線通信インフラ構築と混雑可視化ソリューションの提供、ホテルシステムの移管を。あとは市の駐車場の混雑可視化のプロジェクトも行っています。
ーー通信関係の経験が広く活かされているんですね。主なプロジェクトの流れを具体的にお聞きしてもよろしいですか?
木村:まずは顧客企業の、現在の状態を把握するところから始まります。現状がわかるデータがないことがほとんどなので、調査してデータを取るところからですね。そしてネットワーク設計。無線通信ができる構成をベンダーと決めていきます。そして導入支援として、施工会社と物の設置を行い、導入後も正しく運用できるように、運用方法を設計していく流れですね。
ーーありがとうございます。それでは今のお仕事について深堀りさせてください。プロジェクトの際に苦労する点はどんなところでしょうか?
木村:クライアントにプロジェクトを理解してもらうまでが大変ですね。基本的にクライアントは、課題自体は理解しているけどどう解決するかがわからないので、細かく説明する必要があります。費用に関しても『お金がこのくらいかかる』と説明しても、単純に値段だけで高いと判断されてしまって、一つひとつ費用をかける価値や必要性を理解してもらわないといけません。
ーー専門外だと費用がどのくらいかかるのか、その恩恵もわからないですもんね。では現職のIXならではの苦労したことは何かありましたか?
木村:苦労したことというかIXの風潮ですが、自由にやらせてもらえる反面、どこまで自由にやって良いのか難しい部分はありますね。上司も部下もいないので、指示をもらえるわけでもなく、またフラットゆえに何でも一つのことだけをしていても業務が進まないので、何でもやれる人や自分から仕事を見つけられる人じゃないと苦労します。
ただ逆に言えば失敗するリスクはありますが、自分がやったことのないことに挑戦できる環境ですし、自主的に手を挙げられる人には向いていると思います。みんな自分のやるべきことを能動的に淡々としている印象ですね。
ーー自主性となんでも挑戦する姿勢が大事ということですね。逆にDXプロジェクトを進める上で、やりがいはどんな時に感じますか?
木村:クライアント企業はみな課題意識を持って相談に来てくれるので、自分が携わることで課題が解決して、業務効率化や利益貢献ができた時は嬉しいですね。よくある例なんですが、トップが現状を変えたいと思っていても、部下や現場に熱意が伝わらず焦りがなかったり、変化に消極的な従業員が多いことがあります。
そんな現場の人たちもプロジェクトを進める中で便利になったことに気づいたり、取り組みが進むにつれて重要性を感じたり、成功体験を積むことで意識が変わる瞬間があります。最終的に会社のマインドごと変わって、『社内の雰囲気が変わったよ』と言ってもらえた時は特にやりがいを感じますね。
ーークライアントと距離が近いからこそ会社の変化を直接感じたり、そういった言葉を聞いたりできるんですね。クライアント企業とは、どういった向き合い方をされているんですか?
木村:外から見てアドバイスするのではなく、会社の中に入ってクライアント企業の社員と同じ目線で事業を見るようにしていますね。弊社の取り組みでは、クライアント企業の中のDX推進室としてプロジェクトを進めることがあり、クライアントと密接に関わることになります。基本的にコンサルティング会社は外部からの情報を内部にインプットすることが多いので、現職ではより深く内部から関われていると感じます。
ーーありがとうございます。ちなみにこれまでのプロジェクトで面白かったエピソードを教えていただけると嬉しいです!
木村:蜂が行動しやすい環境のデータを取って農業に活かすために、蜂を一日中監視していたことがありましたね。農家の業務効率化を目指して、なるべく蜂が巣箱に出入りする回数を増やすために、温度・湿度などの環境と蜂の行動をデータ化して、最適な環境を割り出しました。最終的に余った蜂を3匹もらって自宅で育てたりもしましたね。(笑)
ーー面白い案件ですね!そんなことにも携わっていたとは驚きました!木村さんはこれまでたくさんのプロジェクトをされてきたと思うんですが、今後DX人材としてレベルアップしたいことはありますか?
木村:通信系の領域が得意なのでそこに偏ってしまいがちなんですが、DX人材として前さばきから一気通貫して取り組めるようになりたいですね。DX人材は専門性も大事なんですが、それだと顧客をさばききれない場面が出てきます。『一人でなんでもこなせるようにならないと』と考えています。
ーー専門性を持った上で仕事の幅を拡げるのが大事なんですね。そろそろインタビューも終盤に向かうのですが、木村さんは今後この業界でどのような人材が必要とされると思いますか?
木村:DX人材には複合的な視点と知識、経験を組み合わせて考えられる人が必要だなと感じます。最近フィールドエンジニアの需要が減っていますが、実は現場を知っている人は貴重なので、DXの業界においては重宝されることがあります。
例えば新しいセンサーを導入するにしても、電波を最適な位置に設置できるのは、現場で働いた経験がある人だったりするんですよね。メーカーによってセンサーの精度が変わったりもしますし、現場で使ったことのある人間にしかわからないことがあります。
今後は言葉だけのコンサルタントだけではなく、現場の経験がある人材の需要が増えると思いますよ。結局DX推進はインフラを整えるだけでなく、経験・知識を活かして課題解決することが重要なんです。
ーー最後にこれからDX人材になりたい人へのアドバイスをお願いします!
木村:DX人材として働くなら、常に新しい情報を仕入れる姿勢が大事ですね。顧客と深く接していくと、いろんな課題と向き合うことになります。だからこそ自分自身が常に知識のアップデートをどんどんしておかないと、常にベストな対応ができない。私自身、通勤中にIoTNEWSやビジネスネットワークを見たり、面白そうなウェビナーがあれば参加しています。一番早くて情報が多いのは物理的な展示会ですが。変化も早い業界なので、常に自身をアップデートする意識を持ってください。
編集後記
DX人材に求められるスキルは高いですが、クライアント企業と伴走し、目標を達成する喜びは素晴らしいものなのだろうと、インタビューを通して感じました。蜂の行動可視化の話題では、今後どんな業界にもさまざまな形でDX化が必要となること、同時にこれからの社会におけるDXが持つ可能性の大きさを、改めて考えさせられました。
DX人材として働くことは、専門性を活かしながら、挑戦できる環境で自分をより高めていきたい人にとっては最適です。今回のインタビューがDX人材を目指す人にとって、DX業界への理解が深まるきっかけになれば幸いです。